Keep On Movin'

ブン殴られても立ち上がるブログ

ガッズィーラ vs 菩薩が見たい

 

やんちょーさんという人がいる。

 

初対面の人に死ぬほど話すその姿は自称するコミュニケーションおばけどころかコミュニケーションゴジラ。いや、ガッズィーラ(石原さとみ的発音で)。小さい頃オカンにあまりにうるさいから病気なんじゃないかと病院に叩き込まれた経験がある俺ですら参るほど本当にうるさい。

 

そんな中、俺の友達に逆コミュニケーションゴジラがいる。通称"コミュニケーション菩薩"。仮名として、カモメくんにする。

 

カモメくんは小中高の同級生で、ひょろひょろな身体をしていた。無口で、カモメくんから話しかける姿を見たことがない。しかしまぁ短気で、体型を揶揄して「ネギ〜!」って罵るとすぐ殴って来る。で、喧嘩をするとそのひょろひょろから繰り出される鞭のようなしなりを上げた拳が猛威を振るった。ボクシングやったら強いんじゃないかとは思った。疲れた顔も見せないし何なら喧嘩の時に少しだけはにかんでる。カモメくんはそういう奴だった。

 

お母さんは死ぬほどうるさい人で、カモメくんとは違って「うちの子はねぇ」なんてペラペラ話すから、周りの保護者は「本当にこの人から産まれたのかしら」「お父さんに似たのね」なんていう考えが全体に蔓延する、なんとも不思議な家だった。

 

カモメくんとは小中一緒だったのもあり、一緒の電車を使っていた。カモメくんが電車を待ってるのを見たら「カモメくんチャンス」が現れる。

「カモメくんチャンス」とは、ひたすら話題を途切れずにカモメくんに話しかけまくる時間の事で、会話が少し途切れた隙にカモメくんがやれやれという顔をしながらiPodを耳に装着したらゲームオーバーというやつだ。

 

カモメくんはまず話しかけられると「ほ?」って言う。誰に対してもそう。「え?」とか「はい?」とかじゃなく「ほ?」だ。俺のオカンにもそうだった。そっからカモメくんチャンスはスタートする。

車内でカモメくんの隣に陣取り、ひたすら今日あった事を矢継ぎ早に話す。カモメくんは「そう」「それ、おまえがわるい…」「おまえにいわれたくない…」こんな会話でも、大体カモメくんが人と話す事はないので、カモメくんを高校の時から知る人からしたら奇跡的な事をしてるのだ。

それでも、会話が途切れてしまう。やべ、と思ったのも束の間、カモメくんはこのチャンスを逃すまいとポケットに手を突っ込み、光の速さでイヤホンを耳に突っ込み、カモメくんが好きな東京事変の曲を再生する。

 

「…椎名林檎、好きなんだ?」

「…」

 

椎名林檎、好きなんだ?」はまだ会話が出来るかどうかの判断を促してるだけで、返答が来ないのは知ってる。

別れ際のカップルの彼女の「もう、終わりね…私達」と一緒だ。

 

答えはひとつ、終わりなのだ。

 

3年生の時は好きな女の子を待って電車に一緒に乗るミッションを遂行しようと躍起になっていたので、高校を卒業した後は成人式しか会えなかった。ただのストーカーは、高校時代にカモメくんチャンスと彼女ワンチャンという2つのチャンスを逃したのだ。

 

成人式終わりに升酒を片手に旧友と語り合う場が設けられたが、カモメくんは速攻で帰ったらしく、カモメくんを見た姿はそれで終わった。2次会にはもちろん姿を見せなかった。

 

だからカモメくんとやんちょーさんを会わせたらビックバンが起きるんじゃないか。なんて思いながら今から出かけようかな。

電車にカモメくんがいるかもしれないし。